さようならとメールした。
すべてが終わった瞬間だったはずなのに...
その直後、電話で大泣きされて別れられなかった。
「まことさんは共依存だから別れられないよ」
友人にそう言われて返す言葉もなかった。
別れるつもりでメールをずっと無視していた。
しびれを切らしかけてきた電話も無視。
怒り狂うか愛想をつかすかのどちらかだろうと思った。
メールの内容はだんだん重くなり
脅迫めいたものに変化していく。
全部自分のせいと言いながら責めてくる言葉もキツイ。
逃げられない。
友人に言わせれば逃げる気がないということだけど、
諦めに近い部分もある。
狂ってる、狂ってるよ。
「愛してる...」
「でもあたしはいらない人間。必要とされてない人間」
80歳は越えていると思われる
見覚えのある老人が声をかけてきた。
「それ、何キロ?」
「120キロです」
「力あるな」
鋭い眼光はあの人に間違いない。
恐る恐る名前を聞くとやはりそうだった。
遠い昔、筋トレを始めた頃の師匠が目の前にいる。
記憶を辿り自分の存在を思い出してもらった。
筋トレの基本方針を巡って袂を分けたけど
打ち解けるのに時間はかからなかった。
でも..
変わり果てた肉体と顔を見て寂しさがこみ上げてくる。
「俺はみじめなもんだよ」
「そんなことないですよ」
そう答えるのが精いっぱいだった。
時間は輝きを奪い枯れ落ちる晩秋を人々に与える。
たるんだ頬、深い皺、重く突き出る腹。
5キロほどある頭を支える僧帽筋は衰え首が前に垂れる。
上体を垂直に保つ大胸筋、広背筋が力を失い
腰は前のめりに曲がる。
脚は重力の抵抗になす術もなく、
死を迎える一里塚になる。
肉体が滅びへと向かえば
精神も支えを失い朽ち果てる。
人間の儚い夢の後
永遠などこの世には存在しない。
ただ消えゆくのみ。
生にしがみついたり
愛という幻に執着したり
人間はどこまでいっても醜い。
もうどうだっていいよね...